産地におけるデザイン活用の広さと深さ
〜研究をまとめるにあたって〜
本研究を続けるなかで見えてきたのは、時代による産地の変化とデザインの変化である。
ものづくりの産地を30年ごとに見ていくと、
1961年から1990年までの30年は、成長期。
高度経済成長の波に乗って、たくさんの「もの」がつくられ消費された時代。
1991年から2020年までの30年は、成熟期。
バブルがはじけ、生産は減少して鈍化し、暮らしを見直すようになった時代。
そう整理すると、次に続く。
2021年から2050年の30年は、成生期。
ものづくりを、日々の日常に接続して、循環する時代になるのではないか。
暮らしのなかに、ものづくりをいかに成生させていくのか。
その時に、デザインは、どう活かされるのか。
同じ時代区分でデザインを捉えると、
1961年から1990年までの30年は、「もの」のデザイン。
大量生産による機能的で便利な商品のための、「形」の時代。
1991年から2020年までの30年は、情報のデザイン。
パソコンとネットが普及して情報を差別化して伝える時代。
2021年から2050年の30年は、共生のデザイン。
人と人が直接つながり、新しいコミュニティが生まれる時代ではないだろうか。
自分たちの暮らしを自分たちで創造するようになる。
その時に、デザインは、どう活かされるのか。
これからの産地にデザインを活用するためには、これらの流れを念頭に置いて、どんな産地にしたいかを、そこに暮らす人たちで考えて、見える化して、しくみをつくり、それぞれにできることを持ち寄り、自分たちでできることを具体化していくことだろう。
6産地の30年ほどのデザイン活用の変化を見てみると、補助金を使って東京から有名なデザイナー先生を呼び、作品をつくっていた80年代までに比べ、90年に入りバブルがはじけた後には、産地のメーカーと東京のデザイナーが二人三脚的に活動する事例が増え始める。
「もの」のデザインだけでなく、売るため、伝えるためのブランディングも手がけるデザイナーが活躍し、ディレクターやプランナー、プロデューサー的な人材が産地に関わるようになる。産地にデザイン系の大学ができ、行政のデザイン振興が再び活発化することで、産地の内部にもデザイン意識のある経営者や産地で活躍するデザイナーが散見されるようになった。
産地にはものづくりだけでなく、地域振興、まちづくりやリノベーション、観光に関わる都市計画家や建築家、アーティスト、コミュニティデザイナーといったさまざまな人材も出入りするようになり、地域の課題を解決するソーシャルデザインという言葉も生まれる。ものづくりだけでない、多彩なプロジェクトが産み出されているのである。
具体的な産地のデザインを活用した施作としては、工芸センターやデザインセンターをつくり、ものづくりを支援したり、補助金の活用をサポートしたり、アイデアコンペを実施したり、新しいものづくりのプロジェクトをつくったり。ショールームやショップをつくって販売を支援し、見本市への出展などの販路開拓、広報活動やブランディングやウエブサイトの構築、カタログ制作などの販促、工場見学や現地ツアー、同業種や異業種との交流、産官学民の連携事業、デザインの勉強会などさまざまなことが、行政、組合、NPO、グループ、企業、大学などさまざまな主体で行われている。
それぞれの産地が何を目指して進んでいくかで、必要な施作は異なる。しかし、調査した6産地やデザインを適切に活用している産地や企業を見ると、必ず内部にデザインの考え方や方法、感覚が身についている人がいて、さまざまなタイプのデザイナーを適切に活用することができている。産地にデザインを活用するには、幅広いデザインを理解している人が必要であり、すべての人が、ある程度のデザインのリテラシーを有していることが望ましい。その上で、本質を掴み、あるべき姿を描き、課題を明確にして、実行できる推進力が必要になる。
3年間の調査・研究を通じて見えてきたことはたくさんある。しかし、産地はこうあるべきとか、こうやってデザインを活用すべきだという方法論にはたどり着けなかった。今後の課題としては、この研究で見えてきた施作や考え方を言語化して、産地をよくしたいと願っているすべての人に開かれた道具として共有できるようにしていきたいと考えている。
現時点での研究成果については、本サイトに公開した。今後、研究を重ねていくなかで内容を加えていくが、それが議論の場になれば本望である。