• 融合するものづくり産地


    • 産地におけるデザインの活用について、10年以上考えてきたが、変わらずにずっと気になっていることがある。それは、「なぜ? 人はものづくりをするのか」である。私自身は、自分の手でものをつくることがほとんどない。はたしてそれでいいのか。そして、仕事としてものづくりをしている人は、どんなモチベーションで、どんな喜びを感じて、ものづくりをしているのか、をきちんと理解できているのか。

       

      もちろん、お金のためにしかたなくつくっている人もいるかもしれない。でも、現代で稼ぐことだけ考えたら、ものづくりでそんなに稼げるとは思えない。稼ぐために思い浮かぶ道は二つ。一つは作家になって、作品の価値を上げること、もう一つは大量につくって売ること。そのどちらの道も行かずに、少量や中量、適量でものをつくり、必要な人に手渡すことに喜びを感じている人たちがいる。それは、どうしてなのだろうか。辛いこともあるのだろうけど、楽しそうに真剣につくる姿を見ていると、ものづくりの喜びを自分も感じたいと思うが、なかなか踏み込めない。

       

      そして、デザイナーが真剣にものに向き合い、つくる人たちと一緒に考え、最善のものを生み出そうと取組む姿を現場でたくさん見てきた。産業革命により、ものづくりから切り離されたデザインという分業化された仕事が、再び融合して一つになろうとしているように見える。小さな工場や工房だからこそつくりやすい、考えることとつくることの融合。経営者、職人、デザイナーがそれぞれの得意を持ち寄りながら、チームで取組むものづくりのかたち。違う目線で、同じ方向を目指して進んでいく。

       

      さらに、ものづくりは、つかう人にも開いていく時代になってきた。自分がつかうものが、どこの誰がどうやってつくったのかを知りたい欲求から始まり、つかい手の工場や工房見学が当たり前になってきて、自分たちがつかいたいものを生み出していく流れも出てきた。つくることとつかうことの融合。産地に関わるデザイナーは、ものの形を考えるだけでなく、流通に関わり、時には売ることもし、自分で在庫を抱える人さえ増えてきた。

       

      工業化によって切り離された、つくる人とつかう人。

      商業化によって切り離された、売る人と買う人。

      都市化によって切り離された、つくる場所と暮らす場所。

       

      これらが再び融合する可能性が産地にはある、と考えている。自分たちでつくるものを、自分たちのまちでつくり、自分たちでつかう。コミュニティによるものづくりと暮らし。お裾分けのように、つくって余った分は、必要な人たちに渡していく。ものづくりの仕事と、まちづくりの仕事が溶け合って、一つになっていく未来。融合するものづくり産地。その時、デザインは、専門家だけのものでなく、多くの人がつかえる道具のようなものになっているだろう。

       

      ようやく3年間の研究の一区切りがつきました。6つの産地を6人の仲間とまわり、話を聞き、議論した日々。最後の一年は、コロナ禍でオンラインでの議論も増えました。そして、オンラインが当たり前になったおかげで、遠く離れた産地で活躍するデザイナーにも自然に話を聞くことができました。ここでまとめた情報を共有して、産地のこれからを模索する人たちと一緒に考え、行動していきたいと思います。本研究に関わってくださったすべての方々に感謝いたします。

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    • ありがとうございました。

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      萩原 修