07 追加調査
- 調査開始時から、産地がどんどん変化していることが問題になっていた。そこで本研究をまとめるにあたり、今、ものづくり産地周辺で、デザインに関わりながら最も活躍している方々に話を聞くことにした。コロナ禍であるためにリモート取材となった。以下はその要約である。
- 取材した方々
- 迫 一成さん(hickory03travelers 代表/新潟市)
- 白水高広さん(うなぎの寝床 代表/福岡県八女市)
- 新山直弘さん(TSUGI 代表/福井県鯖江市)
- 調査日/2020年10月19日
- 調査者/萩原 修、影山和則、古庄良匡、大沼勇樹、吉川友紀子、中野照子
- −−−−−それぞれの活動をお教えください
- 白水 福岡県八女市で「うなぎの寝床」という会社をやっています。デザインの定義はいろいろあると思いますが、自分は、この地域に足りない要素を事業化していて、それがデザインだと思っています。
- 新山 大阪出身で、今は鯖江の住民です。ここは半径10kmくらいの地域に7つの産地があります。これまで「つくるだけの産地」だったのを、「つくって売る産地」に変えていこうと考え、「デザイン支援」をしています。
- デザイナーだけががんばっても一人相撲。つくり手もがんばらないといけないと思い、工場見学などを行う『RENEW』という活動を起こすなど、持続可能な活動を模索しています。
- 迫 新潟市中心部の商店街ですが、デザインがなかったのです。「シビックプライド」の考え方から、障害者施設のブランディングや商品開発を行い、流通づくりをしたら、売上げが伸びた。売れる商品とは何か? 「売れる、売れない」の反応をみています。僕は「デザイン」「産地」の定義がわからない。地域の産業に伴走する人が足りていないと思います。
- 白水 生活用品をつくる時には「ふつう」であることを心がけています。久留米がすりは、海外では貴重かもしれないが、国内ではここでしかできないことを大切にしたい。地域のアイデンティティのようなものです。産業としては0にはしない、1軒や2軒では産地とはいえませんから。
- 私たちが扱うものはすべて買い取りです。その覚悟の度合いを地域の人は見ていると思う。だから、地域の軋轢はほぼないし、「扱っているものが不公平だ」と言われることもあっても、関係が悪いということではありません。
- −−−−−デザイナーと言われることについては?
- 白水 私は特に肩書きを出していません。地域に足りないことを具現化しているだけですから。「いわゆるデザインしかしないデザイナー」ではありませんし、デザイナーに求められていることは変わってきていますから。
- 土地の文化を掘り起こし、復活させたいと思っています。昔の原理を学んで、今の最先端の技術を使って復活させ、技術を継続させたい、産地が衰退する速度を遅くしたいと思っています。
- 現状を調査して、適性を図る。おせっかい的にやるのではなく、つくり手がどうしたいのか? 文化的にどうなのか? を合わせて判断したいと思っています。それがデザイナーと呼べるのかどうかはわかりませんが。
- 迫 何かすることで社会に貢献したい。とはいえ、ごく簡単なことで、何もしなくてもいいというくらいのシンプルなやり方で。
- 自分たちにできるのは、きっかけをつくること。例えば絹織物ならその技術のすごさを見せるくらい。それを専門家に伝える作業です。ある意味、「おせっかい」的なことをする。それが思いがけないことなら、人々を引きつけます。「デザイナー」という肩書きじゃないですよね。
- 新山 「デザイナー」には幅があります。商品ができてなんぼ、という見方もありますが、僕自身は「デザイナー」だと思っています。インハウスデザイナーのまち版で「インタウンデザイナー」です。その土地で必要とされていること、いろいろな課題を見つけ出して解決し、さまざまな「形」にしていく。デザイナーは消費地だけでなく、生産地でも活躍できると思います。
- 迫 メーカーなどから相談を受けた時に、何をしたいかを聞くと、「まずチラシをつくりたい」と答えが返ってくる。そうじゃなくてもいいんじゃないか、プロジェクトのやり方から見直したほうがいいのではないかな、と思う。デザイナーによっても言うことが違いますが、「デザイン」の使い方がよくわかっていないのでは? と思うことがあります。
- 僕らがやるのは、「診断」みたいなことです。今、チラシが必要ですか? もっと価値を上げることができるのではないですか? と。
- −−−−−3人とも建築を学んでいます
- 白水 僕らが建築を学んだのは、安藤忠雄のように表現する建築から、馬場正尊のように社会をよくする建築に転換していく時代でした。リノベーションというか、今あるものをどう使うか? 時には建てなくてもいいというくらい、今あるものを有効に使うことのほうが大事でした。だから就職するのはやめて、グラフィックで食って、地域と専門家をつなげる仕事になっていったんです。
- 迫 僕自身は建築を学んでいませんが、8年間一緒に仕事をしてきたスタッフが建築出身で、その影響はあるかもしれません。僕は弱者に興味がありました。イメージ戦略を意識していましたし、まわりがやっていないことをやろうとしていました。産地は今、ヘンに畏れ多い地域になっていると思うんですよ。もっとふつうの一般人の感覚が必要なのではないかな。
- 白水 3人とも、よくヒアリングするタイプだと思います。つくり手がどんどんハードルを上げているような状況ですが、そのなかでなんとか抜け道を見つけ出して、解決策を出す。それがデザインなのではないか、と思っています。
- 迫 昔のデザイナーは自分の表現が普遍的だと思っていたから、勝手に解釈して表現していたけど、今はご用聞きのように細かくヒアリングして、素直な感覚で、その人や企業に合った手法ややり方を見つけ出すという感じだと思います。
- −−−−−産地問屋はこれからどうなっていくのか
- 白水 問屋はどこにあればいいのか? その地域に足をつけた視点もあるでしょうが、東京など消費地から見るという視点もあります。どっちもどっちもですね。これから新しいタイプの産地問屋が出てくるでしょう。僕らは「地域文化商社」と言っているのですが、これはAとBのギャップを埋める仕事だと思います。金融や流通を担って「つなぐ」の問屋です。価値観が一緒になったら、必要ない。つくり手がそれをやれるのなら、役割も変わって、消滅する仕事です。
- ただ分業が進んでいるところには問屋は必要ですし、久留米がすりくらいの規模ならば必要ない。それを補完するインターネットなどのツールは、このコロナ禍で加速しています。つくり手の自助努力が、顧客とのコミュニケーションを増やしていくと思います。
- 新山 僕はこれからも問屋は必要だと思います。僕らの産地メーカーは120軒ほどありますが、その半数ほどが問屋と仕事をしています。僕らはデザイン事務所ですが、問屋機能も必要で、つたえ手のあり方も変化しています。問屋みんなが悪ではなく、自分で考えて努力している問屋は少なからずいます。問屋にもがんばってほしいですね。それぞれの努力のなかから、おもしろい問屋が出てくると思います。
- −−−−−地域で活動する時に必要なこと
- 新山 僕らは最初「支える・つくる・売る」という視点でやっていたのですが、それだけでは足りないと気がつきました。それが「醸す」です。つくり手のやる気、熱量をどうかき立てるか、それがないと続きません。
- 僕らがいくら「ポジティブになりましょう」と言っても、伝わらない。そこからBtoBではなく、BtoCの場をつくり体験してもらうことでわかってもらう。『RENEW』では工場見学を通して、使う人はこんなふうに思っているんだ、デザインって大事なんだとわかってもらいたいと思ってます。それが「醸す」です。
- 鞍田崇さんが言っていましたが、産地に厚みを形成するのは、「じゃない人」なのではないか、と思います。そういう人を増やしていきたい。
- 白水 僕らの仕事は、「文化」と「経済」をもっとよくしたい、高いレベルにいくように、その間をつないでいく仕事だと思うんです。
- 「もの」はおもしろいですよ。これまで人工物として捉えていたけど、人間の道具として考えれば、人間の一部でもある。ならば自然の一部なのではないか。ものをつくる人は無意識でつくるけど、そうして考えるとどうなんだろう?と。
- 僕らの活動は漢方薬的な存在だと思っています。薬として即効性はないけど、5年後には効いてくるというか。それを事業としてやっている、それが「デザイン」だと思っています。
- 「文化」と「経済」はうまく混ざらず、どちらかに寄っていきます。売る時にはどちらも含むように、そのバランスに気をつけています。
- 迫 僕は、文化デザインは「コンセプト」で、経済デザインは「売る」ということだと考えています。相談をされた時に、どんな方法でも売上げを上げる体力があるのか、見極めて、時間がないとか予算がないとかの条件のなかから、向いているやり方を考える。気持ちの問題や長く続けられるかなどを大切にしながら。
- 新山 ケース・バイ・ケースで闘い方は変わりますね。企業の規模や体制によっても違う。ヒアリングしまくって、他社にない強みを活かした、似合いそうなことを探し出します。高すぎるゲタをはかすとコケルので、そこは注意して。
- 白水 ブランド化するのは、自分たちが見せたい方向に特化することだけど、伝わる範囲を狭めるおそれもある。
- 迫 大切にしているのは、「ちょっと得意なこと」を「ふつうの人にちゃんと伝えること」。カッコイイとかカワイイと言われるように、尖るよりも丸く、垣根を下げる。常に誰のための何なのか?を考えながら、寛容さのバランスをはかっています。
- −−−−−みなさんはチームで取り組んでいますね
- 新山 やりたいことがたくさんあるので、チームのスタイルでやっています。
- デザイナーは3人で、そう「じゃない」人が3人、僕を入れて7人で、サークルののりで仕事をしています。SAVASTOREはコロナ禍後、売上げが3倍になっていて、バックヤードの整理も急務です。
- 迫 社員は8人で、パートが10人。デザインというより、プレイヤーでありマネージャー。みんなマルチで、それぞれに得意技がある。今は何のために何をしているのか、がわかっています。
- 白水 30人います。20〜30代が中心ですが、40~50代もいるし、履歴も多彩。地元も移住者も混ざっています。UNAラボラトリーズのほうでは、頭で考えるようにしています。
- −−−−−地域がおもしろくなるためのネットワーク。どうしたら、その環境がつくれるのですか
- 新山 『RENEW』がきっかけで、10人が移住しました。これまでは職人さんやデザイナーが移住者として多かったのですが、最近は「じゃない人」たちが目立っています。まずは関係をつくって、その後、それぞれの会社に入社するパターンが多いですね。また、行政が若者を育てようという機運があったのも良かったと思います。インタウンデザイナーになるには、まずは我慢して、守っていくまちを探すこと。生産地にはデザイナーが少ないんです。必要なのは、高知の梅原さん的なスターではなく、もっと学生っぽくて、プレイヤーとしてのあきらめの悪さも持ってる人。支えてくれる人力も大きいですね。
- 迫 移住は効果があると思いますが、まちに選ばれないといけない。そのための努力は必要ですね。行政は、移住者が減っていった時など「最低何人は残す」という見通しが必要です。絶対0にはしないことが大切。
- 白水 行政というか、受け入れる側がおもしろいと思う人を居座らせる覚悟が必要でしょうね。よく「娘婿がうまくいく」というけど、それは「自分ごとにしやすく、客観性もある」ということなんです。まちがおもしろい人を引き入れて、ある意味、野放しにしたら、おもしろくなる。持ちつ持たれつの覚悟、頼まれたからには覚悟をもってやる関係ができたらいい。
- 売上げや従業員数のグラフは、この先変わっていきますよ。高度経済成長期に上がりすぎているのがおかしい、こっちのほうが異常なんです。そこから下がっていくのが正常と考えるほうがいいんじゃないですか。