05 高岡(富山県/金属)
 
 
    • 加賀藩の二代藩主であった前田利長は、慶長141609)年に高岡城を築いた時に、越中・砺波郡の西部金屋から7人の鋳物師を招いて5,000坪の土地を与え、工場を開かせた。これが高岡の鋳物の始まりである。三代藩主の利常は、町人の保護政策を施すなどして、高岡は商工業の中心都市として栄え、全国一の鋳物師集団による産地となった。

       

      江戸中期には、これまでの鋳物師とは別に、仏具師による唐金鋳物が発達する。宝暦年間(17511764年)には、唐金鋳物の仏具、花瓶、香炉の製造が始まり、その後、庶民の生活向上に伴い、仏具生産が盛んになった。銅器問屋によって販路は全国に広がり、幕末には横浜で外国人と取引をするほどだった。

       

      明治に入ると、廃刀令で職を失った金沢藩や富山藩のお抱え細工師を高岡に呼び寄せ、唐金鋳物に高度な技術の彫金を施した製品を数多くつくるようになった。これらの製品は、1873年のウィーン万博や各地の博覧会に出品され好評を博したが、加飾重視の製品は長続きしなかった。昭和51930)年には、アルミ鋳物製造の実用化が図られる。

       

      第二次大戦後、昭和30(1955)年代になると、輸出銅器が盛んになり、工芸鉄器の生産が増えた。高度経済成長期にはギフト需要が増加し、銅器や鉄器の売上げは伸び、新しい技術を導入した生産が押し進められた。工場拡張のため、郊外へ移転し工業団地化も進んだ。

       

      昭和631988)年、富山県知事の指示により、富山県インダストリアル・デザインセンターが開設され、平成111999)年には、富山県総合デザインセンターに改組された。初代デザインセンターの所長には、工業デザイナーでソニー取締役でもあった黒木靖夫氏、改組されてからは、デザイン雑誌の編集長からデザインディレクターになった桐山登士樹氏、というデザインに関わりが深い外

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    • グラフ16 高岡市の金属製品製造業、非鉄金属製造業出荷額(売上高)、企業数、従事者数の推移
    • 出典/経済産業省 工業統計調査

 
    • 調査日/20181121日〜23
    • 調査担当/影山 和則、古庄 良匡
    • 調査協力者/窪 英明 さん(富山県総合デザインセンター 主任研究員)
    • *肩書きは調査当時のもの

窪 英明 さん
富山県総合デザインセンター 主任研究員
 


コンペ関係では、富山県総合デザインセンターと高岡市デザイン・工芸センターは、工業デザイン系と伝統工芸系で棲み分けをしている。県が事務局として行うのは「デザインコンペ」で、高岡市と商工会議所で行うのは「クラフトコンペ」である。ともに四半世紀以上の歴史があり、これまで多くのデザイナーと企業のマッチングを行なってきた。
県知事がデザインに理解があることから、さまざまなデザイン事業はさらに拡大。センターには3Dプリンターや3Dスキャナー、デジタル撮影室、モックアップ工房などの他、企業のインキュベーション施設などがあり活用されている。

高川 昭良 さん
高岡市デザイン工芸センター 所長
日野 利 さん
高岡市デザイン工芸センター 副所長


30年を越えて続いている「高岡クラフトコンペ」は、これまで小泉誠氏、立川裕大氏、大治将典氏などを審査員として招聘しており、第一線のデザイナーやクラフト作家が高岡企業の若手とつながるきっかけになっている。伝統工芸は仕事が激減し、彫金や磨き職人の後継者がなく、貴重な技術が途絶える危機感がある。明治42(1909)年から続く高岡市デザイン・工芸センターでは、地元の名工が指導する伝統工芸スクールや、著名デザイナー指導による産官協働の新クラフト産業育成事業など、さまざまな方法での技術の保存・継承、新分野開拓に力を入れている。

能作 克治 さん
インテリア製品、仏具の製造販売 / 能作 代表


外部デザイナーとはロイヤリティ契約のみだが、現在20数人のデザイナーと契約している。人柄がよく、気が合い、信頼できるデザイナーでなければ、一緒に仕事はできない。また、できるだけ自分で売りたいので、リアル店鋪を増やしている。
産地には、ものづくりと販路拡大の両方ができるコーディネーターが必要。この先、職人がいなくなる可能性があるので、仕事をつくるシステムを構築しようと考えている。

嶋 光太郎 さん
原型、金型製造、陶器・ガラス製品製造 / 嶋モデリング 代表 


内部デザイナーはおらず、これまで50人以上の外部デザイナーと仕事をしてきた。デザイナーが入ればデザインはよくなるが、一人のデザイナーでは産地は変わらない。産地のしくみをつくるデザイナーが必要だ。高岡のためにと、学生と活動するなど、後継者問題や新しい仕事の創出に取り組んでいる。

山口 康太郎 さん
神仏具、美術銅器、おりんの製造 / 山口九乗


2008年から、デザイナーの磯野梨影さんと久乗おりんの制作に取り組んでいる。2010年のギフトショーでは、デザインアワード大賞を獲得した。今はプロダクトデザインのみならず、ブランドマネージメント全般を磯野さんに依頼している。仏具の顧客嗜好が大きく変遷していくなか、久乗おりんに注力した戦略をとっている。

二上 利博 さん
真鍮鋳物の生活用品の企画製造 / 二上 代表


10年前に大治将典さんをデザイナーに迎え、FUTAGAMIブランドを立ち上げた。仏具をやめ、栓抜きや鍋敷、ぜんまいフックなど真鍮の素地を活かしたオリジナルの製品をつくっている。大治さんにはデザイン、ブランディングをお願いしている。正直なものづくり、流行りものは追わない、自分たちがほんとうにほしいものをつくることを心がけている。

島谷 好徳 さん
けいす、おりん、すずがみ製造 / シマタニ昇龍工房 四代目


5年半前から「すずがみ」というオリジナルブランドを展開している。能作さんからノウハウを教えていただきながら進め、現在ではミュージアムショップでの売上げが伸びている。製造現場も5人から10人に増えた。問屋の力が衰えてきたので、自分たちで仕事を撮ってこないといけないと思っている。

山﨑 義樹 さん
グラフィックデザイナー /nanigashi 代表


FUTAGAMIのスタッフを経て独立した。幅広くデザインを行っていて、プロダクトデザインをする場合でも、グラフィックデザインから撮影まで一貫して行うようにしている。

羽田 純 さん
グラフィックデザイナー、ギャラリー経営 / スタジオROLE 代表


伝統産業に従事する職人や問屋で構成される高岡伝統産業青年会から勧誘されて入会。デザイナーという異業種が入ることで、組合のメディア露出や活動のアクティブ化に貢献している。大学とのコラボや展覧会、ツーリズムを行い、他産地とのつながりもできた。組合に入ったことで、産地企業には自分たちの悩みやこれからの方向性などを理解し、一緒に活動していくデザイナーとして認識されているように思う。